お刺身や天ぷらなど色々添えた「お膳」料理が店前のメニューに並んでいた。温泉に併設されたレストランということで、基本的には宿泊客が風呂を浴びた後に食事をする場所のようだ。単純に昼飯を食べたくて一人、飛びこみでやって来た私などは、ちょっとした「場違い」である。
(でも、ちゃんとお金を払うのだから、食べさせてくれるだろう。レストランなのだから)
私はあまり深く考えずに、ラストオーダーぎりぎり間際の店内に入っていった。
マスクを着けた三十代前半くらいの男性スタッフが私を見て、
「一名様?ですか…」
ちょっと困った様子を見せた。が、それも一瞬のことで、
「それでは、こちらの席にどうぞ」
と、四人がけのテーブルに私を案内した。大きな窓ガラスごしに、温泉施設近くのゴルフ場とキャンプ場が見渡せる、見晴らしのよい席である。店内を見渡すと、私以外の客は一人もいないようだ。かすかに遠くのほうで、温泉客がカラオケに興じている声が聞こえている。
女性のスタッフが、温かい焙じ茶とおしぼりを持ってきた。さきほどの困った様子を見せた男性スタッフに比べ、こちらはとても愛想がよく、感じがよかった。これならば閉店間際でも落ち着いて食事が出来そうだ、と私は安堵した。
千七百円の天重と、追加百円で大盛りをたのんだ。とにかく空腹だった。