食事が来るまでの間、窓ガラスの向こうの景色をながめて過ごした。なぜか一本だけ抜きん出ている芒が、晩秋の風に吹かれて揺れながらも、しっかり立っていた。それはどこか、私の心を元気づけてくれる風景だった。
天丼がきた。さっそく食べてみると、これがじつに旨かった。揚げたてで、衣がサクサクである。おそらくラストオーダー直前になって、急に天重を頼む馬鹿がいたものだから、このまま何事もなく調理場を閉めるつもりだったスタッフが大慌てで、一から揚げたのだろう。調理スタッフにはもはや、感謝でしかない…。
食べ終えて時間を見ると、十四時二十分、閉店十分前である。
(せめて、あと五分…)
と私は焙じ茶を楽しんだ。レストランのスタッフたちは皆、今日これから温泉に泊まりに来るお客の席の準備に忙しそうで、私にはまったく注意を払っていなかった。気が楽だった。
「十八時~○○様」と書かれた、まだ無人の席に、傾きかけた秋の日が鈍く当たっていた。私の目前の風景では相変らず、一本だけ高い芒が揺れながらも、風に立ち向かうようにしっかりと立っていた。
(令和6年 11月)